1990年7月11日 新潟日報

新潟日報 「県人アート」  新たにスペイン登場

神奈川県の津久井湖に題材をとったという「樹(午後の影)」は、木々、あるいは森ともいえるうっそうとした樹の茂みと沼のような浅い湖面が描かれている。空と水面の光の輝きと、逆光の中の森の暗さは深閑として、神の訪ねる気配が漂っているようである。白鳥(昭和24年生まれ)の描く他の樹と水をテーマとした画面は全体をグリーンに統一している。

樹と水のテーマは、必然的に水際に視点が集中する。水際が人間に懐かしいのは、おそらく人類の祖先ともいえるアメーバーが水からはい上がり、水際をすみかとした太古の記憶が蘇るからではないだろうか。水辺で生命が誕生し、水辺が進化を促し、生命が滅びると水辺で分解され次の誕生を用意する。その意味で水際は単に水と陸の境界であることを越えて、生命の誕生と死滅にかかわり、自然と文明の境界でもあった。

全十六点の作品の中で、従来の画面に、今回はスペイン女性が加わった。フラメンコを踊る女性が着る衣装の黒は、黒い色であって、無色ではない。ゴヤに倣おうとしたのか、作家の関心は、ひたすら衣装の黒の描写に注がれている。作者の年来のテーマでもあったのだろうが、スペインという題材は、もっと多彩で、奥が深く、動きがあり、人間臭いところがあって、刺激的であるように思う。他方、人形や花、瓶などがよせ集められて、再現的に描写される現代風の机上静物画は、作家の手慣れた領域といってよい。寄せ集められた物同士が、よそよそしく同居し、冷たい雰囲気をかもしだす。巧みな筆さばきであり、その技巧が堅さと冷たさを与える。一見饒舌な画面に見えるが、机上に集められた物たちは、黙して語ろうとはしない。

第五回白鳥十三油絵展は、東京展が六月四日から九日銀座サヱグサ画廊、新潟展が六月十六日から二十四日、グレイス・ヤシロで開かれた

新潟日報 「県人アート」  新たにスペイン登場

神奈川県の津久井湖に題材をとったという「樹(午後の影)」は、木々、あるいは森ともいえるうっそうとした樹の茂みと沼のような浅い湖面が描かれている。空と水面の光の輝きと、逆光の中の森の暗さは深閑として、神の訪ねる気配が漂っているようである。白鳥(昭和24年生まれ)の描く他の樹と水をテーマとした画面は全体をグリーンに統一している。

樹と水のテーマは、必然的に水際に視点が集中する。水際が人間に懐かしいのは、おそらく人類の祖先ともいえるアメーバーが水からはい上がり、水際をすみかとした太古の記憶が蘇るからではないだろうか。水辺で生命が誕生し、水辺が進化を促し、生命が滅びると水辺で分解され次の誕生を用意する。その意味で水際は単に水と陸の境界であることを越えて、生命の誕生と死滅にかかわり、自然と文明の境界でもあった。

全十六点の作品の中で、従来の画面に、今回はスペイン女性が加わった。フラメンコを踊る女性が着る衣装の黒は、黒い色であって、無色ではない。ゴヤに倣おうとしたのか、作家の関心は、ひたすら衣装の黒の描写に注がれている。作者の年来のテーマでもあったのだろうが、スペインという題材は、もっと多彩で、奥が深く、動きがあり、人間臭いところがあって、刺激的であるように思う。他方、人形や花、瓶などがよせ集められて、再現的に描写される現代風の机上静物画は、作家の手慣れた領域といってよい。寄せ集められた物同士が、よそよそしく同居し、冷たい雰囲気をかもしだす。巧みな筆さばきであり、その技巧が堅さと冷たさを与える。一見饒舌な画面に見えるが、机上に集められた物たちは、黙して語ろうとはしない。

第五回白鳥十三油絵展は、東京展が六月四日から九日銀座サヱグサ画廊、新潟展が六月十六日から二十四日、グレイス・ヤシロで開かれた

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