1987年12月12日 新潟日報

新潟日報 「県人アート」

人間の好奇心が多様であるように、画家の好奇心も多様で、それが表現となり、画面となって人々の目にふれる。画家が、人生の目標のようにテーマを設けて描いたもの、野心的な実験を試みたもの、リラックスして楽しんで描いたものなど、並んだ作品から作者の様々な意図が読み取れる。

白鳥十三氏の好奇心の幅もかなり広く、若さゆえのさまざまな試みを行っているようだ。氏が、何ら構えることなく、最もリラックスして描いているのは、「異人池付近から眺める日本海」の風景であろう。水平線を幾分低くとって大きく海を取り込み、真ん中に教会の塔と人家、空と海が夕陽(ひ)に染まった瞬間が描かれている。いつも思い出す、慣れ親しんだ望郷の風景ともいえる。

自然の風景の中でも、陽がまさに落ちようとするひと時ほど、人々に安らぎを与えるものはない。それに異国的雰囲気のする教会の塔、広漠たる日本海の海原、特別な技巧をこらしてはいないが、作者の気持ちがよく出ている画面である。作者の人間性を培っている風景である。

次にひかれるのは、樹(き)のシリーズである。「老いた大木」は、葉がすっかり落ちた老木が、グロテスクな形によじれながら枝を伸ばし、大地に構えて立っているところで、作者の執拗な描写力によって、老木が生き返っているような精気を感じる。樹のシリーズは他に二点、面白いモチーフで今後の展開が楽しみである。

樹のシリーズではないが、やはり大木を画面の真ん中に配した「秋」は、もっと自然描写に徹した画面だ。画家の好奇心は、さらに机上静物シリーズと黒の裸婦シリーズに及び、前二者の自然の描写と違って想像力やイメージを表そうとしているようだ。

「ガラス玉のアル静物」や「緑の部屋(エミール・ガレ頌)」などの、卓上に花や花瓶、ガラス玉、貝殻などの道具が並んだ画面は、室内空間の、いわば親和と異化の効果を狙ったものである。つまり、ふだん見慣れている目前の光景が、一瞬光を当てたように見える驚きの表現でもある。物の見え方を追求する視覚の欲望がなせる技かもしれない。多くの画家が試みているモチーフであるが、氏も一貫したテーマとしている。黒の裸婦シリーズは、黒が引き出す官能美を追求した野心的な試みである。

氏は一九四九年、新潟市生まれ、長い間抽象画を続けてきたが、四、五年前から具象画を始める。どこの団体にも属さず、グループ展や個展で通すつもりだという。六十号の大作を含めて二十点。

「第3回白鳥十三油絵展」は、新潟展が十一月十から二十、グレースヤシロで、東京展は十一月三十から十二月六日、銀座サヱグサ画廊でそれぞれ開かれた。

新潟日報 「県人アート」

人間の好奇心が多様であるように、画家の好奇心も多様で、それが表現となり、画面となって人々の目にふれる。画家が、人生の目標のようにテーマを設けて描いたもの、野心的な実験を試みたもの、リラックスして楽しんで描いたものなど、並んだ作品から作者の様々な意図が読み取れる。

白鳥十三氏の好奇心の幅もかなり広く、若さゆえのさまざまな試みを行っているようだ。氏が、何ら構えることなく、最もリラックスして描いているのは、「異人池付近から眺める日本海」の風景であろう。水平線を幾分低くとって大きく海を取り込み、真ん中に教会の塔と人家、空と海が夕陽(ひ)に染まった瞬間が描かれている。いつも思い出す、慣れ親しんだ望郷の風景ともいえる。

自然の風景の中でも、陽がまさに落ちようとするひと時ほど、人々に安らぎを与えるものはない。それに異国的雰囲気のする教会の塔、広漠たる日本海の海原、特別な技巧をこらしてはいないが、作者の気持ちがよく出ている画面である。作者の人間性を培っている風景である。

次にひかれるのは、樹(き)のシリーズである。「老いた大木」は、葉がすっかり落ちた老木が、グロテスクな形によじれながら枝を伸ばし、大地に構えて立っているところで、作者の執拗な描写力によって、老木が生き返っているような精気を感じる。樹のシリーズは他に二点、面白いモチーフで今後の展開が楽しみである。

樹のシリーズではないが、やはり大木を画面の真ん中に配した「秋」は、もっと自然描写に徹した画面だ。画家の好奇心は、さらに机上静物シリーズと黒の裸婦シリーズに及び、前二者の自然の描写と違って想像力やイメージを表そうとしているようだ。

「ガラス玉のアル静物」や「緑の部屋(エミール・ガレ頌)」などの、卓上に花や花瓶、ガラス玉、貝殻などの道具が並んだ画面は、室内空間の、いわば親和と異化の効果を狙ったものである。つまり、ふだん見慣れている目前の光景が、一瞬光を当てたように見える驚きの表現でもある。物の見え方を追求する視覚の欲望がなせる技かもしれない。多くの画家が試みているモチーフであるが、氏も一貫したテーマとしている。黒の裸婦シリーズは、黒が引き出す官能美を追求した野心的な試みである。

氏は一九四九年、新潟市生まれ、長い間抽象画を続けてきたが、四、五年前から具象画を始める。どこの団体にも属さず、グループ展や個展で通すつもりだという。六十号の大作を含めて二十点。

「第3回白鳥十三油絵展」は、新潟展が十一月十から二十、グレースヤシロで、東京展は十一月三十から十二月六日、銀座サヱグサ画廊でそれぞれ開かれた。

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